Fahrenheit -華氏- Ⅱ
二日間寝ないで、中国のリゾート開発の権利の入札に関する稟議を作り上げた。
依頼主は―――アメリカンウェストスター(旧東星紡):専務取締役 小野田 昭義(Akiyoshi Onoda)氏。
案件は中国、桂林・漓江の土地、大型リゾート開発権利の取得依頼。
桂林では、「ハイテク産業開発区(工業団地)」を開発したり外国企業を誘致したりしている。中国では少し先に進んだ地区だ。主に桂林の南部や西部に工場の展開が見られる。
秦の始皇帝時代からこの地域の行政・商業・軍事の中心であったし、現在では世界的な観光都市でもある。観光産業も含めて人口の集積があるのは当然だ。
中国の企業はこのリゾート開発を共同の権利にして、経営していこうという考え―――
海外企業との連携には、中国企業側の世界的進出とその名を世界中に轟かせることにある。
アメリカじゃ別段珍しいことじゃない。共同出資、経営なんてごまんとあるし、その中では兄弟姉妹で出資し合う企業も多い。
良く聞くでしょ?
“ワーナーブラザーズ”もそのいい例よ。
まるでもっともらしいことを言ったけれど―――
この案件は全部嘘。
つまりはでっちあげってこと。
数ヶ月前―――
アメリカンウエストスターの話を啓から聞き入れたときから、あたしの中で漠然とした計画が沸き起こった。
それは偶然―――
そう、それは
Hasard(アザール):フランス語で―――『偶然』