Fahrenheit -華氏- Ⅱ
それから30分ほど―――
どうやらメールにはすぐに気付いたみたいだけど、彼はメールの添付ファイルをじっと凝視している。
それは二人きりのときの甘い視線ではなく、ナイフのように尖っていて、盾をも射抜くような―――鋭いものだった。
彼はデスクに肘を突き、顎に手を掛け、ただじっと添付ファイルを見つめている。
ときどきマウスをスクロールさせて、まばたきをするさまは真剣そのもの。
こんなときに不謹慎―――
いつになく真剣で真面目な啓の横顔に―――あたしは彼の中に男の色っぽさを感じた。
やがて啓は腕を組むと、画面からちょっとだけ顔の距離を離して、あたしをゆっくりと見てきた。
視線はさっきと変わらない。
左右で違う彼の瞳の奥には―――はじめて見る鋭い光が佇んでいた。
「これさ。この桂林のリゾート開発権利。東星紡が希望したの?」
「ええ、もちろんです」
あたしはさらりと何でもないように答えた。
「それが何か?」と答えると、彼は口に手を当て背もたれに深く背を預けた。
「入札制度だよね。こんなセリがあるなんて聞いてないけど」
やっぱり―――思ったとおり、彼の勘は鋭い。