Fahrenheit -華氏- Ⅱ
結局あたしはもう少し詳しい資料を揃えて出直すことになった。
啓がこう言い出す以上、無理に推し進めるのも逆に不信感を煽るだけだ。
あたしは正直―――
啓がそうゆう反応をしてくれて、どこかほっとしている。
本当は練りに練った作戦だったから、却下されて心が折れそうになったけれど、
でも
啓が何も追及してこずに、稟議をさらりと見て判子だけを押すような考えだったら、
あたしは逆に不信感を抱いていたかもしれない。
互いの信頼関係とは違う―――それは仕事に掛ける情熱。
たとえあたしが彼の恋人だとしても、仕事上での私情は一切挟まずに、冷静過ぎるほどの判断で決断を下した。
そうゆう特別扱いをしないところが―――
結構好き。
―――――
――
昼休み、あたしは会社の目立たない場所で心音に電話を掛けた。
心音はこの電話を待ち望んでいたのか、すぐに電話に出た。
『Hello♪』
いつも明るい彼女の声に、ちょっと気が緩んで思わず弱音を吐いてしまいそうになる。
「だめだったわ。作りなおしよ」短く言ってあたしは吐息を吐いた。
『Oh…』
あたしの答えを半分予想していたのか、心音も大仰にため息をついた。