Fahrenheit -華氏- Ⅱ


『あんたの彼氏、結構厄介ね』心音は憎まれ口を叩くも、その声音はどこか楽しそうに弾んでいた。


「まぁ、まだ時間はあるし長期戦でいくつもりよ。それに最近啓が元気なくて、ちょっと心配なのよね」


あたしは頬に手を当ててちょっと考え込んだ。


『あんたがつれないから、寂しいんじゃないの?男の考えることなんていっつも同じ。女のことしかないんだから』


心音はちょっとおどけて笑う。


『ま、女も同じだけどね』


「何よ、あたしが啓のことばっかり考えてるって言いたいの?」ちょっと声をひそめて唇を尖らせる。


まぁ半分は当たってるけど。


『まぁね♪あんただけじゃなく、あたしだってそうだし』


「心音が男の人のことばかり考えてる?」あたしは思わず聞き返していた。


心音に限って、誰かに振り回されたり、眠れなくなるほど考え込んだりなんてしないと思ってたから。


でも……もしかして最近別れたジョシュアのことまだ引きずってるのかしら。


心音に限ってそれだけはなさそうだろうけど。


『今はEthanのことをどう振ろうか考え中』


イーサンって誰……とりあえずジョシュアでないことは確かね。


『ナンパされて二度ほど寝た仲よ。まぁあたし好みの体をしてたから試しに寝てみたけど、彼氏面してきて面倒なの』


心音らしい。


「付き合ってみたら?フリーなんでしょ?」と返すと、


『面倒。後腐れなくて、顔も中身もレモンみたいにさっぱりした男がいいわ。あと筋肉質な体♪イーサンなんていいのは体だけで、中身は道端に落っこちてるガムみたいに粘っこいんだもの』


Pits!(最悪)と心音は呟いて、


『ねぇ誰か紹介してよ』なんて言い出して来る。


心音のたとえ話は面白かったけれど、


「そんな都合のいい男なんて居ないわ」とあたしは笑った。




< 295 / 572 >

この作品をシェア

pagetop