Fahrenheit -華氏- Ⅱ


コピー用紙一枚分の稟議書を受け取ると、俺は綾子のカップを覗きこんだ。


「いい香り♪ブルマン?俺にも一杯」


「はぁ!面倒くさいわよ。自分のフロアで飲んでよね」


こいつ…俺が会長の息子だって分かってるくせに、何よこの態度。


でも、まぁ会長の息子だからって特別扱いしないところがいいっちゃいいけど…


「あ、私淹れてきます」


見慣れない女の子が慌てて立ち上がった。


「いいのよ。瑞野(ミズノ)さん。こいつのことは気にしないで」


綾子は瑞野秘書ににっこり。俺にだって見せたことのない笑顔だぞ!


しかも特別扱いしないところがいいって言ったけど、この扱いは酷すぎ!


「でも…」


瑞野秘書はちょっと困ったように手をもじもじ。


「新しい子?珍しいねこの時期に」


「はぁ?あんた何言ってんのよ。こないだ紹介したでしょ?10月付けで港支社から異動になった子だって」


そーだっけ…


綾子が呆れかえるのも無理がない。


取引先の人間の顔を覚えるのは得意だけど、社内の人間はどうも…


しかも俺は、女の顔と名前を覚えられないけど、女の体の特徴はしっかりと覚えている。


と、同期の…こっちもかなりの遊び人だった麻野 裕二(アサノ ユウジ)に指摘されたっけね。


だけど良くみたら結構可愛い子だった。



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