Fahrenheit -華氏- Ⅱ
ここ数日間、真咲からの連絡はなかった。正確に言うと前回真咲とアロマルージュで話したとき以来だ。
あの婚約届をどうするべきか悩んだ。
悩んだ末、いまだ俺のスーツの中でそれは眠ったままになっている。
知らない振りをした方がいいのだろうか。
向こうもなくしたことに焦っているかもしれないのに…
でも俺に何も聞いて来ないところをみると、それほどあいつにとって大切なものじゃないのかもしれない。
真咲が結婚か―――
昔の女がどうなろうと俺には関係のないことだが、それでも真咲のその話は現実離れしているように思えた。
いや、真咲は昔から結婚に対して一種憧れのような夢を抱いていた。
俺が就職した暁には籍を入れようと、せっつかれた覚えもある。
だけどあいつは今―――その結婚に対して渋っている……?
分からないまま日は過ぎて、考えながら眠りにつく。
嫌な夢を見たくないから寝る前にはたくさんアルコールを飲んで。
ビールから始まって、焼酎、日本酒、ワインに、ウィスキー…家にある酒を片っ端から開けた。
その結果分かったことがある。
寝酒は良くない。
無意味にアルコールを体に入れると、睡眠のリズムが崩れる。
あの赤ん坊の変な夢こそ見なかったが、浅い眠りが断続的に続いて、普段見ることのない夢を見ては目覚めの悪い朝を迎える。
そんな日常が続いた。