Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「ごめんね。失礼なこと言って」
俺は素直に瑞野さんに謝った。
「いえ。挨拶に伺ったとき神流部長忙しそうにしてらしたから」
さすが社長秘書も勤める子だ。言葉遣いも姿勢も上品だった。
「港支社でも支社長の秘書室に居た子よ。前に居た田中くん、覚えてる?あの子が辞めたから後任の子が来たってわけ」
田中…
あぁ覚えてるよ。何せあいつは瑠華に気がある風だったからな。(Fahrenheit -華氏- Ⅰでは殆ど登場してません。こうゆうところだけ記憶力がいいんですよ。啓人って)
ふっ
残念だな、田中。瑠華は俺のものだ。
「あいつ何で辞めたの?」さりげなく聞くと、綾子はうんざりした顔つきで、
「あんたホントに何にも聞いてないのね。彼、実家の家業を継ぐって言ったじゃない」
だって男の退職事情に興味なんてねぇもん。
でも…ふーん…色々あるもんだ。
瑞野さんは結局俺にコーヒーを出してくれた。俺は豪華なソファセットでくつろいでコーヒーのカップに口を付ける。
さすがブルーマウンテン。俺のフロアのインスタントとは全然違うぜ。
ってかどうよ?この差は…
「あの、お砂糖とミルクは?」と瑞野さんはおっとりと砂糖とミルクが入ったバスケットを俺に差し出してくれた。
秘書の鑑だね、この子は♪
一方綾子は、
「こいつはいつもブラックよ。気にしないで。あんたこんなところで油売ってていいの?」と早く帰れの態度。
おのれ綾子め!俺を早く追い出そうとしてるのが見え見えだっ。
「いいだろ?コーヒーぐらい。今日一日何も食ってねぇんだよ」
俺は綾子を睨んだ。