Fahrenheit -華氏- Ⅱ
すぐ近くで瑞野さんは不思議そうに首を傾けている。
「木下リーダーと神流部長って仲が宜しいんですね」
「「ただの同期。腐れ縁みたいなものだ(よ)」」
俺と綾子の声が重なって、瑞野さんは柔らかく笑った。
「息ぴったり」
こんな奴と息が合っても嬉しかねぇよ。
まぁ綾子は美人だけど、こいつを女として意識したことは一度もねぇ!
そんなわけで俺たちはキャンキャン言いながらも、コーヒーを飲み終わると大人しくフロアに戻ることにした。
エレベーターホールでエレベーターを待っていると、
「あの!神流部長」と瑞野さんが追いかけてきた。
俺は首だけを捻って彼女を見る。
こうやってみると背は瑠華と同じぐらいだ。顔の系統も服装もどことなく瑠華に似ている気がする。
でもこっちは幾分か素直で優しくおっとりしていそうだけど。
なんて言ったら瑠華に殺されるかも。
「忘れ物でもしたかな」
「いえ…、あの甘いものはお好きですか?」
「甘いもの?嫌いじゃないけど」
「じゃ、これ宜しかったら。朝から何もお口にされてないと伺ったもので」
瑞野さんはおずおずと両手を差し伸べてきた。
その手の中に有名菓子メーカーのマドレーヌがあった。