Fahrenheit -華氏- Ⅱ
その夜はあまり眠れなかった。
寝室の向こう側に裕二が居るって思うだけで、何となく気になる。
当のご本人はしっかり熟睡モードだろうが。
こんなところで神経質な俺の体がいやになる。
何度も身じろぎして寝る体勢を変えるものの、目を閉じても眠けはやってこない。
隣で眠る瑠華も同じようで…ってか彼女の場合はリアルに気が立ってるんだろうな、きっと…
そんなんだから、ぐっすりと眠れるとは思えなかった。
何度も暗闇の中で目が合い、その度にちょっとだけ彼女の頬に手を当て苦笑をする。
「ごめんな」小さく謝ると、彼女も同じぐらい小さく首を横に振った。
うとうととしだした頃にはもう明け方で―――
お陰であの悪夢を見ずにはすんだけど、気を遣い過ぎて逆に疲れた。
――――
――
出勤前、ソファに座りながらタバコを吹かせ、新聞をめくっている瑠華を遠目で見て、同じくダイニングテーブルでコーヒーを飲みながら裕二が遠慮がちに声を掛けてきた。
「な、なぁなぁ。柏木さん…怒ってる?」
「さぁ。知るかよ。朝は…ってかいつもあんなもんだ」
今朝、裕二が起き出すよりも一時間も早く瑠華は起きて、俺の知らない間にシャワーと化粧を済ませていた。
寝不足だろうに、それでも全然疲れが見れない。
だけど裕二の言葉が気になって、コーヒーを飲みながら瑠華の様子をちょっと伺った。
彼女の格好は昨日と同じ服、黒のボウタイがアクセントになってるブラウスに、白黒チェックのパンツ姿。
今日は耳のラインでハーフアップをつくっている。
今日も変わらず可愛い……けど、今日も相変わらず何を考えているかさっぱりだ。