Fahrenheit -華氏- Ⅱ
~♪
テーブルに置いた瑠華の携帯が鳴り、瑠華が携帯を手に取った。
綺麗なオルゴールメロディ。曲はマイフェアレディの“踊り明かそう”だ。
初めてのデート(?)で、瑠華と一緒に見たオードリー・ヘップバーンのミュージカル。
下町の娘、イライザが言語学者のヒギンズ教授にレディの立ち居振る舞いの猛特訓を受け、上流階級顔負けの娘へと成長するさまを描いた映画。
特訓を受けてはじめて成果が見えたとき、イライザが歌うのがこの曲だ。
瑠華は……
俺に会って着メロをこれに変えた。
思い出を何かに残してくれようとする姿勢が、俺には嬉しい。
携帯の待ちうけを愛娘のユーリから、ぴよこ(ひよこのぬいぐるみ)に変えた。
事実を忘れ去るつもりはないだろうけど、彼女の中で何かが変わりつつあるのは確かだ。
俺は―――瑠華の過去を全部受け止めるつもりだ。
全部。
「心音から電話です。すみません」断りを入れて、瑠華は寝室の方をちらりと伺う。
「どーぞ、どーぞ♪」と裕二が答えると、瑠華はちょっとだけ顔をしかめながらも寝室に入っていった。
「Hey(おはよう)どうしたの?」なんて挨拶が聞こえてきて、寝室の扉が閉まると裕二がこっちに向き直った。
「やっぱ怒ってるみたいだな…」ため息を吐きながら、コーヒーに口を付ける。
それには否定せずに俺はタバコを口に銜えた。
「自業自得だ」
「何かさ…お前柏木さんと居て疲れない?そりゃ美人だし頭はいいし、遊ぶ相手にすれば最高だけど、付き合うとなるとまた別じゃね?」
裕二がコーヒーを飲みながら聞いてくる。