Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「でもお前、いっとき瑠華を狙ってただろ?」
「そりゃ一発ヤれればいいかな、とは思ったサ。連れて歩く分にも申し分ないし?お前だって最初はそのクチだろ」
そう言われてきっぱりと否定できない俺。
「でさ、本当のところどうなんだよ」
「本当のところ?んなのマジに決まってンだろ!」
俺が声を低めて裕二を睨むと、
「違うって。あっち系のは・な・し♪」
と裕二はにやにや。
「知るか。勝手にやってろ」
俺は乱暴にタバコを灰皿にもみ消すと、ダイニングテーブルを立ち上がった。
乱暴にソファに座り、苛々と脚を組んで瑠華の居る寝室をちらりと見る。
締め切った扉からあまり声は聞こえてこなかったけど、時折楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
「プライド―――…ねぇ」
呟いて俺は前を向いた。
――――
――
俺と瑠華、それから裕二と言う変な組み合わせで会社に出勤し、俺たちはそれぞれの仕事に励んだ。
昼前に頼んでいた稟議書の返しを瑞野さんがわざわざ会長室から持ってきてくれた。
「決済の印鑑です。確認お願いします。ここと、ここと…」
綺麗な細い指で印鑑の欄を示され、俺は書類をめくって頷いた。
すぐ近くでは佐々木がそわそわ。
瑠華は変わらず、資料の詰まったファイルを無表情にめくっている。
一通り話し終えて、瑞野さんが顔を上げると、瑠華の手首を見て目をまばたいた。
「柏木補佐、すてきな腕時計ですね」
瑠華の腕には―――ピンクの腕時計、momo2が掛かっていた。