Fahrenheit -華氏- Ⅱ



瑠華はファイルをめくる手を止めて、


「ありがとうございます」と小さく頭を下げる。


「瑞野さんフランクミュラーに詳しいの?」何気なく聞いた。


そー言えば、二村もカノジョ(?)に欲しいってねだられてたって言ってたよな?


女の子たちの間で流行ってるンのかな?


「フランクミュラーと言うか、あのmomoシリーズが可愛くて気になってたんです。雑誌に載ってて」


「そうなの?女の子って好きだよね、ピンクとか。瑞野さんもピンク似合いそうじゃん」


さりげなく言うと、瑞野さんは白い頬をピンク色に染めて慌てて手を振った。


「いえっ!そんなっ!」


この照れた反応が初々しくて可愛い。


瑠華なんか無表情で、「ありがとうございます」の一言だぜ?


そんなことを思っていると、隣からじとーっとじめじめした視線を感じた。


佐々木が資料の用紙を握りながら、俺をちょっと睨んでいる。


お前が心配することない。俺には愛する瑠華が居るからな。


なんて冷めた視線を送り返していたときだった。





「馬鹿野郎!!!」





隣の部署からそう怒鳴る声が聞こえてきて、俺たちは全員思わず顔を見合わせた。


陰険村木の声だ。


あいつが今更怒ろうと気にならないが、でも今回は気になるほど凄い怒鳴り声だったし、迫力を感じたんだ。


俺の後ろに立てたパーテーションまで声の振動でビリビリ震えてる感じ。


そろ~っと顔を出して覗き見ると、隣の物流管理事業部の部長席で村木が、いつもの陰気な顔色を真っ赤に染めて、机を叩いていた。


その向かい側にシロアリ緑川が呆然と突っ立て居る。


なにごと??





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