Fahrenheit -華氏- Ⅱ
それでもそうそう他部署の問題に関わっていられるほど俺たちにも余裕があるわけではない。
と言うわけで、仕事を再開させたが…
「あれ…?一昨年の取り引きデータが抜け落ちてる。資料、持ってくるかぁ」
俺はちらりと佐々木を見ると、佐々木は慌てて顔を逸らして電話をし始める。
瑠華に―――…頼めるほど、俺は怖いもの知らずじゃない。
しょうがない…自分で行くかぁ。
今資料室行ったら、緑川に鉢合わせるだろうから行きたくないんだけどね。
「頑張ってください」
瑠華が無表情に言って、がくりと俺が項垂れると、彼女はちょっと考え直すかのように首を傾けた。
足元に置いたバッグからハンカチを取り出すと、
「これ、使ってください」と手渡された。
綺麗にアイロンが掛かっているバーバリーのもので、綺麗なピンク色とバーバリー柄がお洒落にデザインされている。
「…何で?トイレ行くわけじゃないのに」
きょとんとして言うと、
「部長にではありません。緑川さんに」
と瑠華が無表情に答える。
「………え?」
「私が行くより部長の方がいいでしょう。この場合緑川さんは同性同士じゃないほうがいいと思いますので」
瑠華―――……
冷たく見えて
やっぱり彼女は優しい―――
キュン
と心臓を鳴らして、俺は思わずそのハンカチに頬ずりしたくなった。