Fahrenheit -華氏- Ⅱ


「え?俺に?」


「はい。いただき物ですけど、私たちはいただきましたので」


「いいの?」


「はい。お召しあがりください。と言っても足しにならないかもしれないけど」


瑞野さんは、はにかみながらちょっと笑った。


瑞野さんの気遣いにじーんとくる。綾子とは雲泥の差だ。


瑞野さんの笑顔は、瑠華のようにこちらがドキッとするような華があるわけじゃないけど、ほっこりと心温まる笑顔だった。


「ありがと。いただくよ」


俺はマドレーヌを貰って、丁度到着したエレベーターに乗り込んだ。


「お疲れ様です」


さすが秘書!ってな感じで完璧なお辞儀で見送られ、エレベーターの扉は閉まった。


フロアに戻ると、俺は早速マドレーヌにがぶりとかぶりついた。


「それ、どうしたんですか?」


佐々木が俺の手元のマドレーヌを目ざとく見つける。


「秘書課の瑞野?さんに貰ったんだよ。朝から何も食ってないって言ったら気ぃ利かせてくれてさ。いい子だよな、あの子」


「えぇ!いいなぁ」


「何だよ。やらねぇぞ」


と、部長の癖に意地汚い。


瑠華が居たら睨まれそうだ。


「別にお菓子はいいですよぉ。ただ瑞野さんに貰ったことがいいなって思っただけで」


佐々木は面白くなさそうにそっぽを向いた。






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