Fahrenheit -華氏- Ⅱ
な、慰めるつもりが…余計酷いことになった。
どうしていいか分からずに肩を叩くと、緑川は俺の襟を掴んだまま泣きじゃくった。
「…あ…あたしが悪いってことは分かってる…んです。…だ、だけど…あんなみんなの居るところで…あ、あんな風に…怒鳴ることないじゃない…」
しゃくりあげながら、緑川が喚く。
「ああ…そうだよな。村木もなぁ…」
頷いて俺はなだめる様に緑川の肩を叩き続ける。
てか、気の利いた言葉が思いつかん。
こうゆう場合どうやって慰めればいいの!??
「あ…、あたしにだってプ…プライドがあるし…瑞野さんが居たし…」
わぁぁああん…
またも声を上げて勢い込む緑川。
緑川、言ってること無茶苦茶だぜ?ここで何で瑞野さんが出てくる。それに瑞野さんが居たのは偶然だ。
そう言ってなだめる様に肩を抱き、俺はもう片方の手でハンカチを取り出した。
「ほら。これ使って涙を拭いて…」
緑川は俺が手にしたハンカチをじっと見つめ、そして俺を見上げてくる。
「……これ…」
「ああ、柏木さんのだ。君にって」
グスンと鼻を鳴らして、緑川はおずおずとハンカチを受け取った。
ハンカチで目元を押さえると、
「あ…あたし、どうして…か、柏木補佐みたいに…なれないんだろ…」
と、またも的外れな言葉が返ってきて俺は目をまばたいた。
「今度は柏木さん?どーしたんだって言うんだよ。前の緑川さんだったら、そんなこと気にせずに自分の道を突っ走ってただろ?」
そう―――緑川には、瑠華とは違うまっすぐさがあった。
瑠華と緑川。
二人はまったく異なった性格だし、考え方もまったく違うが目標に向かって突き進む意味では二人とも男にない強さを持っている。
「誰かと比べるもんじゃないし、比べられるもんじゃない。
君は君のいいところがたくさんあるはずだ」