Fahrenheit -華氏- Ⅱ
どうしていいか分からずに、俺は困り果てていた。
ヒックヒックと泣きじゃくる緑川をそっと抱きしめる。
大抵の女だったら大人しくなるからな。
秘儀っ!ぎゅっと抱きしめて慰める攻撃だ!!
くっ……できればこの技だけは使いたくなかったぜ。何せ俺には愛する瑠華ちゃんが居るわけだからな。
こんなところ見られたら、言い訳もできん。
俺顔の形が変わるぐらい殴られるかもしれん。(…それだけで済めばいいけど)
なんて考えていると、
「緑川さん?大丈夫?資料探しは私がやるから……」
と顔を出したのは―――瑠華ではなく、内藤チーフだった。
「!!」
びっくりして声も出せずに居ると、同じように驚いて内藤チーフは目を丸めていた。
「あ…あらあらあら…、私お邪魔だったかしら?」
と意味深に笑って、後ずさる。
「え、いえ!!これは誤解なんです!」
顔を青くして慌てて緑川から手を離すと、
「大丈夫。私、誰にも言いませんから♪」
と、内藤チーフはどことなく楽しそう。
「いえ!本当に誤解です」
俺は内藤チーフの両肩に手を置いて、声を低めながら真剣に見つめると、
「神流部長…いけませんわ。私おばさんだし…」
と内藤チーフが頬をぽっと染めて視線を逸らした。
い…いやいやいや…
なんて顔を引きつらせていると、
「冗談です。って言ってもちょっとクラっと来ちゃったけど♪」
おい…
若干呆れてると、俺の後ろを内藤チーフが覗き込んだ。
「緑川さん、私資料集めするから、今から休憩入ってきなさい?神流部長に話を聞いてもらうといいわ」
なんて勝手に決めてるし!
俺ぁまだ仕事があんの!!しかも部署だって違うしっ!
「でも化粧が…」
おい!緑川っ!!いつまで化粧にこだわってる!大丈夫だ。男はそこまで気にしん。
心の中で喚いていると、内藤チーフはちらりと俺を見上げた。
「柏木補佐に来てもらったらどうです?」
は……瑠華??