Fahrenheit -華氏- Ⅱ
何て言うの?内藤チーフって瑠華を信用…ってか信頼してるよな。
俺がTUBAKIウエディングの案件で困っているときも、「柏木補佐に手伝ってもらいなさいな」なんて言ってたし。
でも…瑠華いわく、今の緑川は「同性同士じゃない方がいい」らしい。
「どうする?」
と言った意味で緑川を振り向くと、緑川は何も言わなかった。躊躇ったように顔を僅かに伏せている。
あからさまな拒否はしていないようで、俺は吐息をつきながら資料室の内線電話に手を伸ばした。
「あ―――…柏木さん?俺…」
『どちらの“俺さま”でしょう』
くっ!このジメジメ攻撃!久しぶりに食らったぜ。
若干怯みながらも、
「神流デス。あの悪いけど、柏木さん化粧道具持ってない?あ!変な意味じゃなくて!!」
慌てて手を振ると、
『持ってますよ。緑川さんですか?』と瑠華は鋭い。
「んー…そうなんだよね。申し訳ないけどちょっと貸してくれない?ついでに持ってきてくれない??」
厚かましいことをお願いするわけで、俺の腰はひたすら低く下がっていくようだ。
それでも瑠華は、
『分かりました。資料室ですよね』
と深く突っ込まれずに、答えが帰ってきた。
そうゆうわけで―――その5分後には瑠華が化粧ポーチを提げてやってきた。