Fahrenheit -華氏- Ⅱ
内藤チーフは資料を探す前に、もう一度案件を見直すとかで出て行った…って言うか気を遣ってくれたんだよな…
イイ人…
じーんと胸を打たれながらも、
「これ欲しかったディオールのグロスだぁ!」
と緑川がはしゃいだ声を上げていた。
さっきの涙はどこへやら。
「柏木補佐のポーチの中って、すっごいですね」
化粧ポーチの中を覗き込んで、緑川がびっくり…って言うか楽しそうにしていた。
仕事途中だったから、瑠華も機嫌が悪いと思いきや、
「これなんか緑川さんには合うと思いますよ?」なんてリップを取り出している。
「ホントですか~♪」
「リップなんてどーでもいいよ。早くしてくれよ」
うんざりして言うと、瑠華と緑川にキッと睨まれた。
「部長、女は口紅一つで気分も変わるんです。なるべく明るい色をつけて気分が上昇すれば、外見も美しく、そして意欲も高まるものなんです」
「あ…ハイ」
瑠華の気迫に目を点にさせながらも…
なるほどぉ。だから瑠華はいっつも綺麗にしてるんだね。
すっぴんでも可愛いケド♪
女って大変…いやいや、凄いな…
緑川は嬉しそうにリップを受け取って、瑠華の口元を見る。
「これ…柏木補佐がつけてるものですかぁ?」
「ええ、そうですけど。気に入ったのなら新品を差し上げますよ?家に同じものが2つありますので」
「ホントに!」と緑川は目を輝かせた。
「ええ」と瑠華が無表情に答えると、
「これを着けたら、あたしも柏木補佐みたいになれる?」
と真剣に瑠華を見つめて、瑠華はちょっと困ったように目をまばたいた。