Fahrenheit -華氏- Ⅱ
柏木 瑠華と言う女は―――小さな体にたくさんのエネルギーを持っていて、それを蓄えるだけの大きな器を持ち得ているということだ。
唐突に瑠華を抱きしめたくなった。
ぎゅっと強く胸に抱いて、その柔らかな髪に手を入れて彼女の頭を撫で、
彼女の魂まで奪うようなキスをしたかった。
だけど―――…
「……っグスン…」
またも予期せぬ事態が……
緑川が再び声を上げて泣き出したのだ。
え゛?
これには瑠華もびっくりしたようで、
「ごめんなさい。私怒ってるつもりはないんです」
と彼女にしては珍しく、どうしていいか分からないと言う様な困惑を浮かべて緑川の頭を撫でている。
「…し…知ってます……だ、だって…柏木補佐は…いつだってそうだったから…。
あ、あたし…こんなんだから…彼にも捨てられるんです…」
ぅわぁあぁああああん!!
またも声を上げて泣き出し、俺たちは困ったように顔を見合わせた。
「どうしたって言うんだよ。捨てられるって。ちょっと前まではラブラブだったじゃん」
俺が困ったように眉を寄せて、またも緑川の近くに腰を屈めると、
「…だ、だって、あたし勝てないんだもん!絶対勝てないんだもん!!」
ぅわーん…
緑川は叫んで、瑠華に抱きついた。
瑠華はびっくりしたように目を開いて固まっていたが、それでも
よしよし、ってな具合で緑川の背中を撫でている。
泣き叫ぶ緑川を宥めながらも、ちょっと眉を寄せて俺を見上げてきた。