Fahrenheit -華氏- Ⅱ



え――――……?


「ぇぇえええ!?」


混乱して声がデカくなり、周りの客たちが何事か怪訝そうに振り返る。


慌てて口を噤みながらも、俺は隣に座っていた瑠華を見た。


「知ってた?」と聞くと、


瑠華は「まさか」と言い、ぶんぶん首を横に振った。


さすがの瑠華も平静ではいられないようだ。びっくりして目を丸めている。


その向かい側で緑川は恥ずかしそうに俯いている。


「え…えーっと…整理しよう。お前は二村が好きで、ついでに言うと付き合ってて、二村はお前と付き合いながらも、瑞野さんが好き…っと。瑞野さんは?」


ついつい“君”から“お前”に代わっていたけど、誰も気にした様子はない。


緑川はちょっと迷うように視線をテーブルに彷徨わせて、


「……瑞野さんは他に好きな人が居るみたいです。付き合ってはないようですけど…」


と、おずおずと答えた。


「二村さんは瑞野さんに好きな男性が居ることを知ってらっしゃるのですか?」


瑠華が聞いて、緑川はまたも迷うように俯いた。


俺は上着からタバコを取りだして、口に銜えた。


瑠華も同じように、バッグからシガレットケースを取り出している。


考えることは一緒だな。動揺しすぎて、タバコでも吸わないとやってられない。


「三角関係かよ。それも社内で」


煙をため息と共に吐き出した。


「……四角関係です。瑞野さんが好きな人も―――…社内の人だって……二村くんから…聞きました」


四角関係―――……


くらりと眩暈を起こしそうだったが、それでも瑠華はどう考えてるだろうと気になって彼女の方をちらりと伺うと―――



る、瑠華っ!!煙どころか、魂まで漏れてるぞっ!!!





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