Fahrenheit -華氏- Ⅱ
急に色素が薄くなった瑠華を揺すると、瑠華は、はっとしたように目をまばたいた。
どうやら魂が戻ってきたようだ。
ちょっと考えるように目を伏せて、それでも数秒の後、緑川を真正面から見据えた。
「社内恋愛は別に悪いことだと思いません。一種出逢いの場ではありますし、結婚される方も多いです。
でも二村さんに他に好きな女性が居るとなると…私は賛成できかねます」
俺も、うんうんと頷いた。
「そうだぞ?お前だって辛いんじゃないか?」
「……辛いけど…好きだから……」
「わっかんないな~…あんなヤツどこがいいわけ?そりゃ人懐っこいし、仕事はデキると思うけど。あいつ女なら…(ってか男にもか)いっつもちょっかい掛けてるぞ?」
瑠華にもしょっちゅう何やかんやでちょっかい掛けてるクチだ。
俺はそれが許せん。
緑川って言う彼女が居ながらっ!
なんて考えてると、「それをあなたが言います?」と瑠華の白~い目が……
「俺はっ!あからさまな…気を持たせるようなことしてないぜ!」
「そうでしょうか。ご自分の胸に手を当てて良く考えてください」
言われて、素直に胸を押さえる。
そんな俺を放置して、
「でも部長の言う通りです。二村さんは部長や麻野さんと同じ匂いがしますし、何よりあなたが辛くはないんですか?」
おいっ!俺や裕二と同じ匂いって!!
………否めない俺…
確かにあいつからは、ほんのりと俺たちと同じ匂いが漂ってくるんだよなぁ。
考えてはっとなった。
「そー言えば!瑞野さん、前キスマークつけて会社来てたぜ?あれって二村がっ??」
言ったあとになって慌てて口を噤んだが、時すでに遅し……
「それ…どーゆう意味ですか?」
と緑川より早く、瑠華ちゃんのこっわ~い声を聞いて俺は身を縮ませた。