Fahrenheit -華氏- Ⅱ


そう思うと辻褄が合う。


あのとき相席した二村と瑞野さん、それから俺と緑川―――


緑川はあからさまに機嫌が悪そうだったし、瑞野さんはまるで石のように大人しく静かだった。


今の今までただ単に喧嘩でもしたのかと思っていたが―――…


そしてmomo2。


二村のカノジョが欲しがっていた腕時計。同様に、瑞野さんも欲しがっていた。


単なる流行りではなく、そのキーワードは繋がっていたというわけだ…


しっかし、瑞野さんもなぁ…


大人しそうな顔して、結構したたかだな。


アポストロフィで相席したときの態度から見ると、緑川と二村の関係を知ってると思ってまず間違いがないだろう。


それなのに平気な顔していられるんだもんなぁ。


佐々木…お前、マジで良かったよ。


可愛いけど…魔性のオンナだ。


お前にゃハードルが高過ぎる。


まだ、けなげに瑠華を想っている方がいい。


目の前の緑川を見ると、彼女は瑠華にしがみついて泣きじゃくっていた。


よほどストレスが溜まっていたのだろうか。村木に叱られて爆発したんだな、きっと……


瑠華は緑川を抱きしめるように背中に手を置いて、撫でていた。


時折困ったようにこっちに目を向ける。





やっと本気の恋をしたのに―――



その恋は手を出すには、飛び越えるには、あまりにも壁が高く、手を伸ばした先には何もない―――…



どうすればいいのか。





その答えは誰も知らないし、



知っていたとしても、誰も教えてくれない。



知っているのは―――






自分自身だけだ。






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