Fahrenheit -華氏- Ⅱ


しばらく緑川は泣いていたが、それでも瑠華に言われた通り深呼吸して、出されたアイスティーを飲むと、ちょっとだけ落ち着いたようだ。


鼻を啜りながらも、


「……すみません…」と俺たちに小さく謝った。


「…いや。気にするなよ。…それより、俺二村に言ってやろうか?『ふざけた真似すんじゃねぇ』って」


と半分冗談で言うと、緑川は慌てて手を振った。


「だ、大丈夫です!それはしないでください!」


「…だよな。お前だってプライドってもんがあるだろうし。どうせあいつから言われてんだろ?付き合ってることは秘密にしようって」


軽く想像できたことを言うと、緑川はこくんと小さく頷いた。


まぁ考えたら社内恋愛なんてそんなもんだ。


俺たちも、裕二&綾子カップルだってそうだしな。


「しっかし四角関係とはねぇ……瑞野さんの好きなヤツって一体どんなヤツだよ。そいつとは付き合ってないってことは、まさか相手は既婚者?」


顔を歪めて探るように緑川に聞くと、


「……そこまでは…知りません」と弱々しく緑川が呟く。


「お相手が既婚者だろうと、なかろうと。もし緑川さんの言う通り彼女が二村さんと関係を持っていたのなら、その状態はよろしくないですね」


瑠華が淡々と言って、アイスティーに口を付けた。


その仕草で瑠華がちょっと首をひねると、シルバーチェーンがブラウスの合間から見えた。


べ、別に変な目で見てたわけじゃねーぞ!(そりゃ…瑠華ちゃんの白い首はきれい…♪とはちょっと思ったけど)←そこが変な目つきだっつぅの


シルバーのチェーンの先には俺とおそろいのリングが下っているわけで。


と思って、はっと目を開いた。


あいつ……二村…


あいつもリングをこうやって首から提げていた。


ちらりと緑川の首を見ると、緑川の首には細いゴールドチェーンの先に、きらきらした小粒のダイヤのネックレスが掛かっていた。


指にも―――当然リングはなかった……





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