Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「ちょっと待って。だって二村だぜ?」
言った後で自分自身、その言葉に何の意味も持たない気がした。
二村が、緑川と結婚したら―――あいつが副社長になる確率は、ゼロ%じゃなくなる。
二村は―――緑川を利用している?
本当に付き合って好き合っている同士は二村と、瑞野さん。
二人は結託して緑川を取り入れようとしている……?
そう言えば少し前に―――…
緑川派の筆頭、緑川副社長の側近、鴨志田監査役が古くからの神流の補佐役、瓜生常務と料亭に入っていった。
と言う情報を綾子から仕入れた。
もはや瓜生常務が緑川派に寝返ったのは、変えようのない事実。
問題はそこじゃない。
裏切りなんてどの世界にもどの業界にもあることだ。
それに瓜生常務が寝返ったところで、彼に何かをする権限は今はほとんどない。
問題はその後―――
その料亭に、村木部長と二村が揃って入っていった
綾子の言葉を頭の中で反芻して、俺は目を開いて瑠華を見た。
瑠華はちょっとだけまばたきをして、心配そうに俺を見返してくる。
もし二村が村木の手下だとしたら?
90%の確立でそうだろうが、そうだったら神流の中枢に入り込むことが容易くなる。
二村の目的は―――
二人の女の心を弄ぶことじゃない。
あいつは―――
会社を乗っ取ろうとしている