Fahrenheit -華氏- Ⅱ
俺は瑠華にその話を聞かせると、瑠華もちょっと眉をひそめた。
もちろん、相手が瑠華だから話したことだけど。
瑠華は俺の言葉を一言一句頭に叩き込むように、じっとまばたきもせず俺の話に耳を傾けていた。
それでも冷静に頷くと、
「次回の株主総会はいつです?」
聞かれて、俺は額に手を当てた。
「確かにおじさまは主用株主でいらっしゃるけれど、株主総会で、私たちが想像するよりも緑川派が多数居れば……厳密に言うと3分の2を有する人数が居れば―――おじさまの会長辞任が議決されてしまうかもしれない」
俺は額から手を退けると、目をまばたかせて瑠華を見つめた。
「緑川副社長がインサイダー取引(※会社の内部者が行う、自社株などの取引のことです)を?」
「その可能性は考えられます」
あのタヌキオヤジは水面下で―――静かに動いていたってわけだ。
「そのあと緑川副社長が会長になり……」
「何年か後には二村さんが社長になることは、ありえます」
「一体どれだけ居るんだ、緑川派は!」
俺はテーブルを叩いた。
もし緑川派が神流派を上回ったら―――間違いなくその権力はひっくり返る。
「くそっ!」
吐き捨てるように言って、俺は前髪をぐしゃりと掻き揚げた。
「まだそうとは決まっていません。それに2大勢力の権力が早々簡単にひっくり返るとは思えません。
今は神流派の団結が必要です。保有株数をしっかり保って、闇取引を行わせないことに集中するべきです」
まさか緑川の騒ぎから―――
こんな大問題に発展するとは俺自身思ってもみなかった。
ただでさえ今はごたごたしてんのに!