Fahrenheit -華氏- Ⅱ


と、まぁ今後どうするべきか話しをしようとしていた矢先だった。


携帯が鳴って、


『部長ーーー!!いつまで休憩いってるんですか!こっちは大変なんですっ!戻ってきてください!』


と佐々木のヒステリックな声を電話越しに聞いて、とりあえず会社に戻らざるをえなくなかった。


あいつっていつも怒るとき、俺に向かってだよな。


俺一応上司ですけど。


とぶつぶつ言いながらも瑠華に引きずられるようにして渋々会社に戻った。


8階の廊下に降り立ったときだった。


またも携帯で電話をしている村木を遠くで見つけて、


「敵を発見!隠れろっ!」


瑠華を廊下の影に無理やり押しやり、柱の影からそろりとその様子を伺った。


村木は非常口の扉に隠れるようにして携帯に耳を当てている。


その横顔はやっぱり青白くて、お世辞にも健康的とは言えなかった。


「―――またその話か。悪いけど、それだけはダメだ。―――今度の日曜日?―――俺は会わない。と言うかそいつを呼ぶな」


日曜日―――…?


誰と会うって言うんだ?


俺の背後からそっと村木の様子を伺っていた瑠華と、俺は顔を見合わせた。


「―――何とでも言え。無理なものは無理だ。じゃあな」


村木はイライラしたように電話を切り上げ、肩を怒らせてフロアに戻っていった。


この前も、こそこそと電話をしていたが、あのときはまだ決断できないような口ぶりだった。


だけど今は―――はっきりと無理だ、と言い切っている。


何が―――…


何が無理なんだ………?






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