Fahrenheit -華氏- Ⅱ
瑠華も不思議そうに村木の背中を見送っていたが、
「村木部長、少し痩せられました?背中に変な影を背負ってますよね…」
なんて言い出した。
変な影!?何それ!ウケる!!
「瑠華ちゃん、あいつには疫病神がとり憑いているんだよ♪目を合わせたら呪われるぜ~♪」
なんて言うと、瑠華は白い目でじとっと俺を見る。
「あなたの背中にも女性の生霊がいっぱい憑いてますよ。肩が重そう」
え゛!?
俺は慌てて肩を掴んだ。最近やたらと肩こりを感じていたが…
単なる歳のせいかと思いきや、そっち!?
「冗談です」
瑠華はちょっと悪戯っぽく笑って、フロアに戻っていく。
何だヨ。冗談かYO!
なんてふざけてヒップホップ調に言ってる場合じゃない。
瑠華の帰っていったフロアの扉の先に―――
白くて小さな手が手招きしていたのを見て、俺は冗談抜きで目を開いた。
―――え……
目を開いてその場で固まっていると、突然扉が開いた。
「―――で、今期の売り上げ残高だけど…」と経理部の主任と、物流管理の社員が話しながら出てきて、俺に気づくと、
「あ、お疲れ様です」なんて言って頭を下げて、横を通り過ぎていく。
パタン、と閉じられた扉の先に―――
あの白い手はなかった。