Fahrenheit -華氏- Ⅱ
思えば今まで女に対してこんな風に思うことがなかった。
女は性欲の対象でしかなかったし、体さえあれば良かった。
そこに入っている魂はまるで興味がなかったと言っていい。
そんなものだと思っていたし、興味を駆り立てられる誰かと出会えることなんてないとも思って諦めていた。
話題の…それも誰もが泣ける恋愛映画を見ても共感はできなかったし、切ないバラードは音符が耳をすり抜けていくだけ。
恋愛体質ではないのだ、と思い込んでいたが―――それは違った。
俺は瑠華と出逢って自分でも驚くほど素直になったり、悲しくなったり、彼女の傍に居たいと思ったり、子供みたいにわがままを言いたくなったり、
笑ったり―――嫉妬したり……
「なぁ。瑠華は俺と一緒に風呂に入ること好きだよな。
俺より以前に関係があった男とも―――こうやって入ってたの…?」
探るように目を上げると、
瑠華はあさっての方を見ながら
「そういえばハロウィンがもうすぐですね」
なんて…
はい!俺の話、無視っ!!
いいケド…慣れてるし…瑠華ちゃんに冷たくさるのなんて今にはじまったことじゃないもんね…
イジイジ…
分かりやすくいじけて、湯の中で指をこねくりまわしていると、
「毎年……」
瑠華が口を開いた。その声はバスルームに響いてやけに大きく感じた。
「離婚が決定して別居するまでは、毎年ハロウィンとクリスマスだけはどんなに忙しかろうと、家族3人でパーティーに出て、
食事をして、その後三人一緒にお風呂に入るのが……
あたしたちの決め事でした」