Fahrenheit -華氏- Ⅱ
俺は顔をゆっくりと上げた。
瑠華はちょっと寂しそうに眉を寄せて、それでも無理やり笑顔を作っていた。
バカだな……俺も。
瑠華にこんな顔させたいわけじゃなかったのに。
ただ気になっただけなのに。それだけなのに、その質問すら彼女を傷つける。
俺は瑠華の頬にそっと手を置いて、今度は俺が彼女の頬を撫で上げた。
瑠華は俺の手に自分の手を重ね、わずかに瞳を伏せると淡い笑みを浮かべた。
「前回、ユーリは魔女の仮装をしたんです」
「仮装…コスプレ?」俺は何でもないように笑った。
「瑠華の娘だからきっとすっげぇ可愛い魔女だろうな」
「可愛いですよ?三角帽子に、黒いフード付きマント。黒いワンピースにちゃんと箒も持って。親バカですよね」
瑠華がちょっと笑い、その声はバスルームに響いた。
「本格的だな。瑠華は?何に扮装したの?」
「あたしは殺人鬼です」
殺人鬼!
俺がちょっと目を丸めて瑠華を見ると、瑠華は楽しそうに目を細めた。
「普通のドレスでした。殺人者だから。でも手には血のり付きの作り物の斧を持ってましたよ」
斧!?こわっ!ってか似合い過ぎだろそれっ!!
瑠華が目を開いて、口元をにやりと吊り上げてみせて
「I'll kill you.(殺してやる)」と囁いた。
こわっーーーー!!はまり過ぎ!!
俺は身震いした。瑠華は面白そうに笑い、
「ボディーガードのティムはフランケンシュタイン、“あいつ”は狼人間。まぁ楽しかったですよ?」
“あいつ”……もうすでに名前も呼んでもらえないんデスね。
ざまぁみろ。ふふんと鼻を鳴らすと、
「啓は―――…Vampireが似合いそう」
瑠華が普通の笑顔に戻って、俺に笑いかけてきた。