Fahrenheit -華氏- Ⅱ
I love you,July.I'm sorry, please forgive mom.
(愛してるわ、ユーリ。そしてごめんなさい。ママを許して)
瑠華はまるで歌うように…まるで懺悔をするように囁いて、言葉を閉ざした。
「謝るなよ。君は悪くないし―――誰も悪くない。
どんなに想いあってる二人でも、すれ違ったり考えが合わなくなったりして道をたがえることはある。
それは誰かが修復できることでもないし、していいことでもない。
君が娘を想う気持ちは、素晴らしいことだと思うけど―――その言葉がいけないことだと俺は思わない」
瑠華がゆっくりと首を捻り、俺を見上げてくる。
長い睫にはまだ涙の雫がくっついていたが、さっきみたいに悲しみを浮かべてはいなかった。
俺はきゅっと瑠華を抱きしめた。
俺の前で瑠華はなるべく普通通り振舞おうとしているけれど、俺は―――
無理をしてほしくない。
どうしたら瑠華の不安な気持ちを拭えるだろうか―――
瑠華の滑らかな額にキスをして、俺は少しの間考えた。
「そうだ!瑠華。ハロウィンパーティーやろう♪俺たちで」
「ハロウィンパーティー?」
瑠華が目をぱちぱちさせて俺を見上げてくる。
「そう。綾子や裕二…それから桐島とマリちゃん夫婦。親しい連中を集めてさ。仮装して飲んだり食べたりのどんちゃん騒ぎ♪
たくさん笑ったら―――悲しいことなんて、思い出さなくなる。
君の想い出も大切だけど、俺たちの―――
想い出も作っていこうよ」
瑠華の想い出を辿るのは―――俺にとって辛いことかもしれない。
それに前のオトコと同じことをする自分がかっこ悪くて、ほんの少しだけ惨めな気持ちになったけれど、
瑠華が笑ってくれるのなら、
それが俺にとっての幸せ。
「俺、ヴァンパイアの仮装するよ?♪」