Fahrenheit -華氏- Ⅱ
でも―――
「啓はちょっと神秘的な雰囲気があるからヴァンパイアの仮装は似合いそうですね。綾子さんはデビルかしら…麻野さんは―――透明人間で」
と、瑠華は楽しそうだ。
それを見ただけで、言ってみた甲斐があるってもんだ。
「てか透明人間って、来るなってこと?」
あいつ、瑠華を怒らせたからな~カワイソ。(←でもあくまで他人事)
それでも瑠華が楽しそうなのは、やっぱり俺は嬉しくてぎゅぅっと瑠華を抱きしめた。
瑠華が僅かに笑い声を上げて、俺は彼女の唇にそっと口付けをした。
「大丈夫ですよ」
瑠華が僅かに体をねじると、俺に穏やかなに微笑みを向けてきた。俺の頬を撫で上げてきて、俺は目をまばたいた。
「大丈夫、二村さんが何を考えていようと、きっと―――大丈夫。
あたしが一緒だから。
二人ならどんな壁だって乗り越えられる」
まっすぐに見つめられ、俺の顔に顔を近づけてきた。
瞬きをすると、彼女の長い睫が触れるほどに。
シャボンの爽やかな香りがして―――それが泡立てた湯からなのか、それとも彼女のシャンプーの香りなのか。
それを間近に感じて、ほんのひととき色んなことを忘れられた。
真咲のこと、二村と緑川のこと、それから裕二のこと……
それらの存在が一瞬だけ頭を離れる。
この世界には俺と彼女しか居なくて―――たった二人だけ……手を取り合って永遠に生きていくんだ。
そんな夢を抱いてしまう。
だけどこの瞬間だけは―――そんな夢を抱いてもいいだろ?
瑠華と二人……
瑠華の淡いピンク色をした唇が僅かに開き、俺はその唇に再び自分の唇を合わせた。
「ああ。君がいれば―――大丈夫だ」
瑠華さえいれば―――俺は何もいらない。