Fahrenheit -華氏- Ⅱ
夜が深まると、パーティーは賑やかさを増した。
マックスは女性たちに囲まれ、心音とジョシュアも二人で仲良く…って言うか恋人たちの甘い…二人だけの世界ね。
何だか疲れてあたしは早々にお暇することを決めた。
あたしはマックスが気になってはいたけれど、その伝え方が分からなかった。
今までボーイフレンドはいたこともあったけれど、愛を語るより、手を繋ぐより、キスをするより―――
友達と遊んだり、最近では立ち上げたばかりの会社の運営に夢中で―――
恋愛の仕方を知らなかった。
昔から…夢見がちであったことは確か。とろけるような甘い恋の映画を観ては、いつかあたしも……
なんてうっとりしていたのを覚えている。
特にお気に入りは『ローマの休日』
アン王女が新聞記者のジョーとローマ市内を散策しながら、次第に惹かれあっていく二人を見て、何度心がキュッと鳴ったか。
だけど現実は甘くない。あたしはアン王女のように何もかも捨ててお城を抜け出す勇気も、差し出された手を何のためらいもなく取ることも
できなかったのだ。
ため息をついてむき出しの肩にショールを羽織ると、あたしは会場をあとにした。
別荘の庭は綺麗に手入れされていて、所々ライトに浮かび上がった花々が美しい。
まるで異世界に居るみたい。12時の鐘が鳴って、おうちに帰るシンデレラの気分になり、あたしはちょっと俯いた。
とぼとぼと歩きながら、
庭の中に浮かび上がるようにして、フォリー(西洋の庭園に見られる装飾用の建物)が建っていいるのを見つけた。
古代ローマの神殿に似せた造りで、凝った装飾がされている。
ちょうど良かった。一息入れようかしら。
そこに置かれた石のベンチに腰掛けあたしはバッグからシガレットケースを取り出す。
そのときだった。
「Are you leaving?(もう帰るの?)」
賑やかな会場と違って静かな庭園だったから、その声がはっきりと聞こえあたしは顔を上げた。