Fahrenheit -華氏- Ⅱ
マックスが近づいてきて、あたしは慌てて立ち上がった。
「Yeah,I'm poor at a fast and furious place. I'm sorry.(ええ。どうも賑やかな場所は苦手で。ごめんなさいね)」
「Can you relax here?(ここだったらいいかな?)」
率直に言われ、にっこり微笑まれて、あたしは僅かに口を開けた。だけど何か言おうと口を開いたのに、結局次に繋がる言葉が思い浮かばなかった。
身を強張らせて、
「Ahem」
空咳をし、辺りに視線を彷徨わせると遠くに会場となっている屋敷が見えて、そこから明かりと賑やかな声が僅かに漏れている。
どうやらあたしを追いかけてきたみたいだ。
マックスはあたしの明確な返事を聞かずに、あたしの隣に腰を降ろす。
随分とスマートな仕草に、こうゆうことが慣れていると分かったけれど、それでも―――いやじゃなかった。
「Forget something?(忘れ物だよ?)」
色っぽく微笑んで、マックスは作り物の斧をあたしに手渡してくれた。
「Thanks so much.(どうもありがとう)」
斧を受け取ろうとして差し出した手に、マックスがそっと自分の手を重ねてきた。
彼も白いグローブをしていたから直に肌が触れなかったけれど、逆にそれが良かった。
素肌だったらきっとあたし、一人だけ熱くなっていることを知られちゃうから。
「Uh…A glove is obstructive. (あー…、手袋が邪魔だな)」
彼はちょっと顔をしかめて、右手を動かし……それでも左手はあたしの手を握ったまま。
まるで逃げていかないように、しっかりとあたしの手を握ったまま、片方の手袋を器用に口ではずした。
世界の名だたる御曹司なのに、その仕草はちょっと粗野な感じがして……それでもあたしの知らないワイルドな一面が見れて、それすらもドキリとした。
だけど問われた言葉は、その仕草と反対でとても―――優しかった。
「Do you dislike me? (君は俺が嫌い?)」