Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「お疲れ様で~す♪」
とやたらと元気良く挨拶をしながら入ってきたのは、
やはり10月の異動で情報管理部(つまりは俺の前の部署で、今緑川が配属になってる部署)で働いている
二村 空太(ニムラ ソラタ)だ。
こいつは緑川と同期とかで、神奈川支社からの異動だった。
まだ若いのに神奈川の開発営業部署ではかなりの成績をあげ、本社に引っ張ってこられたってわけだ。
名のある大学を卒業し、いきなり本社勤務のエリートってわけではないが、やる気とそれに伴う実力を買われている。
今一番の出世株と噂され、おまけに女受けしそうな甘いマスクと男女問わずにきさくで甘え上手なこの男は、年齢、上下問わずに親しまれている。
何でこんなに詳しいかって??
こいつはやたらと瑠華に親しげだからだよ!
と言ってもこいつには意識してやってるわけじゃなさそうだけど。
俺にだってやたらと懐いてくるあたり、天性の甘え上手が備わってるわけだ。
その人懐こい人柄と、仕事にかける情熱、誰とも分け隔てなく接する態度は
なるほど、出世株と噂されるだけあるな。
でも俺はこいつ、なんか苦手。
何ていうんだろ…この笑顔の下に何かを隠していそうで―――
気が抜けないんだ。