Fahrenheit -華氏- Ⅱ
マックスは何をするにも自信に溢れている人だった。それは恋愛でも例外ではなく、その姿勢がステキだったし、イヤと思う理由もなかった。
マックスの手のひらは温かくて、優しさに溢れていた。
彼の一言一句があたしの胸の中で大きく跳ねて、まるで心臓の中を暴れ狂っているようだった。
ただの口説き文句かもしれない。遊ばれるかもしれない。
だけどそのときあたしは―――
「No,It is not strange. (いいえ、変じゃない)」
あたしは彼の手のひらにそっと自分の手のひらを重ねた。
―――
――
つまりあたしは彼の言葉にKnock Outされたわけで。
過去に戻れるものなら、このときのあたしに言ってやるわ。
「お先真っ暗」
つまり―――その数年後―――あたしたちの間には、あんなに熱かった熱が引いて、あるのは冷め切った仮面の関係だった。
「Trick or Treat~♪」
ユーリがあたしたち夫婦の前で明るい声でボディーガードのティムに両手を差し伸べている。
「Hey,You are a cute witch. (やあ、可愛い魔女さんだ)」
ティムは笑ってお菓子がつまった袋をユーリに手渡し、その大きな手のひらで彼女を抱き上げた。
ユーリがはしゃいだ声を上げて、お菓子の袋をぎゅっと胸の中に抱く。
「Ruka,you look beautiful.(ルカ、君も綺麗だ)」
すでにドレスに着替え終わっていたあたしを見てティムは白い歯を見せて笑い、あたしの頬にキスをする。
「Thanks.Sorry Tim, please see July.(ありがとう。悪いけどティム、ユーリを見ててちょうだい) I want to have a talk with Max.(マックスと話があるの)」
ティムの腕に乗って、彼の顔に抱きつくように腕を回しているユーリを撫でると、ティムはマックスに微苦笑を向けた。
あたしの隣でマックスがため息をついて、肩をすくめる。
「Is the talk useless in it being now? (今じゃないとダメなのか?)」
「Now(今よ)」あたしは一言冷ややかな目で彼を見、腕を組んで隣の広い応接間に続く扉を顎で指し示した。
「We see each other only such at the time. Come on.Let's go.(こんなときしか、顔を合わさないじゃない。行くわよ)」
その態度にマックスは諦めたように吐息をつき、のろのろと歩き出した。