Fahrenheit -華氏- Ⅱ
マックスはあたしから恋する気持ちを奪った。
愛する楽しさを奪った。
生き甲斐だった会社を奪われ、
自分の分身であったユーリを奪い、
美しい想い出も、楽しかった記憶も―――笑顔も―――全部……
何もかも
奪っていった。
何もかも諦めた先には、悲しみだけが残った―――筈だったのに……
「俺は君を裏切らない。君のずっと傍に居る。
君を傷つけるものすべてから君を守る。
だから―――泣かないで……
瑠華」
顔を上げると、滲んだ視界にぼんやりと啓の姿が映った。
左右で違う―――まるでガラス細工のような綺麗な瞳。
マックスの瞳はビー玉のように透き通る深いグリーンだった。
エメラルドのようであり、それは静かな……森を連想させた。
でも啓の瞳の色は深い―――夜と、
水底の色をしている。
「啓―――」
「瑠華、愛してる」
啓はあたしの大好きな笑顔でにっこり笑って、あたしを力強く引き寄せる。
瞳の色はどちらかと言うと冷たい色を感じるのに、だけどその手のひらはいつも暖かかった。