Fahrenheit -華氏- Ⅱ


マックスはあたしから恋する気持ちを奪った。


愛する楽しさを奪った。


生き甲斐だった会社を奪われ、




自分の分身であったユーリを奪い、




美しい想い出も、楽しかった記憶も―――笑顔も―――全部……




何もかも



奪っていった。




何もかも諦めた先には、悲しみだけが残った―――筈だったのに……





「俺は君を裏切らない。君のずっと傍に居る。


君を傷つけるものすべてから君を守る。


だから―――泣かないで……




瑠華」




顔を上げると、滲んだ視界にぼんやりと啓の姿が映った。


左右で違う―――まるでガラス細工のような綺麗な瞳。



マックスの瞳はビー玉のように透き通る深いグリーンだった。


エメラルドのようであり、それは静かな……森を連想させた。




でも啓の瞳の色は深い―――夜と、


水底の色をしている。





「啓―――」




「瑠華、愛してる」





啓はあたしの大好きな笑顔でにっこり笑って、あたしを力強く引き寄せる。


瞳の色はどちらかと言うと冷たい色を感じるのに、だけどその手のひらはいつも暖かかった。




< 377 / 572 >

この作品をシェア

pagetop