Fahrenheit -華氏- Ⅱ
――――!!
声にならない声を上げて、俺は思わず後ずさりをした。
その肩先に誰かとぶつかって、慌てて振り向くと、
今度は“二村”が相変わらずのにこにこ顔で突っ立っていた。
「二村!?何でここに??」
「だってここは部長の夢の中ですよ?だから意味なんてあってないような」
と、二村が首をかしげている。
そっか…ここは―――俺の夢…
「でも…じゃぁ尚更何でお前が出てくるんだよ。野郎の夢なんか見たかねぇんだよ」
二村の登場で……お陰でさっきの衝撃が引きつつあった。
冷静さを取り戻しつつある俺はぞんざいに言って二村を睨みつけたが、二村は全く堪えない。
「まぁまぁ。そう怒ったら血圧上がりますよ?俺だって部長の夢なんかより、柏木さんの夢に出たかった~」
なんて口を尖らせている。
「彼女の夢なら尚更出るな!お前の夢なんて見た日にゃうなされるに決まってる」
「前から思ってたんですけどぉ。部長って柏木さんのことになると、結構本気で怒りますよね」
聞かれて、俺は無言で眉をしかめた。
ここは俺の夢だから何を言ってもいいはずなのに―――だけど何故か憚られた。
「大丈夫ですよ。俺、柏木さんには手を出すつもりはありませんから。
もうすでに副社長の娘を手中に収めてるからね」
二村が意味深に深く笑うと、あいつの腕の中に―――今度は“緑川”が現れた。
緑川っ!おいっ!!
お前騙されてンぞ!!そいつは酷いヤツなんだ!
俺が怒鳴ったがその声は彼女に届かない。
「酷いのはあなたじゃない」
真咲の声が背後から聞こえて、ぎくりとなり俺は振り返った。