Fahrenheit -華氏- Ⅱ


そう言ういきさつがあって二村が異動になったわけだ。


内藤チーフは二村について、さらに補足説明をくれた。


「二村くん、彼ねぇ。やり手よ。あんなふわふわしてるけど、仕事はデキるわね。だから村木部長のお気に入りなのよ」


へぇ…


「噂じゃ村木部長が彼を欲しくて、欲しくて邪魔だった前任の川田くんを辞めさせたって話。あんな言い合いがなければホントは柏木補佐が欲しかったみたいだけどね~」


なぬっ!!!瑠華を!!?


てめぇに瑠華をやるかっ!!


彼女は俺の女神だっ!



と、まぁ井戸端会議的なお喋りを締めくくって内藤チーフは去っていったっけね。




うつ病―――……か………




他人事には思えないな。


あ、もちろん俺が、じゃないよ。



―――『あたしは抑うつ神経症だと、お医者さまに診断されました。もう一年も前からです』



俺はそのとき、瑠華の言葉を思い出した。


神経症―――つまりはノイローゼだ。


神経症とは一言で言うと、不安な気持ちを自分でコントロールできなくなる“心の病”らしい。


憂鬱で重苦しい気分、外界への関心の低下、自信喪失、未来への悲観などを主症状とする神経症でうつ病とは区別のつきにくい病気だとか。


もちろん、こんなこと俺が最初から知っていたわけではない。


彼女から聞かされて、俺は初めてその手の本を手にとり、勉強しただけだ。







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