Fahrenheit -華氏- Ⅱ
ノイローゼ―――とは言っても、瑠華は至って普通。
至ってテンションは低いし、仕事は速いし、変わらず可愛い(←関係ない)
でも彼女の腕に走った傷跡を見て―――暗い現実を突きつけられた。
ガラスで傷つけたと言う。
傷みは感じない。心が傷つきたくないから、自分を傷つけるのだ、と彼女は言った。
俺にはやっぱり理解ができないし、したいとも思わない。
傷跡は消えると瑠華は言ったけど、彼女の綺麗な肌に傷がつくのはやっぱり可哀想だし、俺自身が嫌だ。
俺と付き合いだしてからは、割と落ち着いているのか、彼女が酷く取り乱したりしたことはない。
よく怒られるケド…
それでも、一緒に居るとき俺ははなるべく刃物を彼女から遠ざけるようにしている。
ちなみに俺のマンションでも、包丁以外カッターやはさみといった類は瑠華の目の届かない場所に隠してある。
そんなことをしないでも、瑠華を悲しみから護ってやるのが俺の役目だと思うが、
どうしたら護ってやれるのか、どうしたらその病気から救えるのか
俺には分からない。
―――「部長は死にたいと思ったことあります?」
瑠華の言葉は、まるで錘のように俺の頭の中を支配している。