Fahrenheit -華氏- Ⅱ
今度こそ自分のフロアに戻ろうとしたが、何故か裕二がくっついてくる。
「お前は自分のフロアに帰れよ」
と、引き離そうとしたが裕二は腕を組みながら、
「まだお前んとこの修復が終わってねんだよ」とぶすり、と答える。
俺は腕時計に目を落とし、
「もう予定の三十分はとっくに過ぎてんだろ?」と裕二を睨んだ。
「途中トラブルもあったし、俺がパソコンを直してる最中隣から冷た~い風が吹き荒れてるんだよ。
やりにくいったらありゃしねぇ。
マジで凍えそうなんだけど!あの空気をどうにかしろよ!」
裕二は目を吊り上げて、俺の両肩を乱暴に掴んだ。
隣からの冷たい風―――……ってのは問いただすこともなく、瑠華の雰囲気だと言うことが分かる。
「る……柏木さんに何か言われたのかよ」
「…言われてないけど」
「じゃ、いいじゃん。睨まれたとか?」
「…睨まれても…ないと思う」
「じゃ、いいじゃん!!」
何だよ、お前は!!そんなのいつもの光景だ!
俺がそう答えると、今度は裕二が目を丸めた。
「いつも!?いつもあんな風なのか!喋らないし笑わないし、独り言の一つも呟かない!」
独り言……そいやぁ俺瑠華の独り言って聞いたことないかも……
って言うか…
「いつも彼女はそうだよ。ってかお前に後ろ暗いとこがあるから余計気になるんじゃねぇのか?」
俺が腕を組んでガン垂れると、裕二は急にしゅんと大人しくなった。
そんな裕二を励ますため、(ってか早く直してもらわないと俺が困るから)
「大丈夫♪柏木さんは、お前のことなんて全然眼中にねぇよ♪メールも見事スルーだったし、鬱陶しがられてたぐらいだからな。
お前の気にし過ぎだ?」
と笑いかけてやった。
「ぜんっぜんフォローになってないんですけど」
裕二が恨みがましい目で俺を見てきて、俺はあかんべをしてやった。