Fahrenheit -華氏- Ⅱ
どうやらこの一件で裕二は瑠華に苦手意識を持ったらしい。
何で綾子は良くて、瑠華はダメなんだよ!と突っ込みたいところだが、それこそ好きな女が被ったら大変だ。
何せこいつは俺と一緒で、その気になりゃあの手この手で攻めてくる、超!肉食だからな。
ふぅ、こいつが綾子なんて言うオトコ女好きになってくれて良かったよ。
俺だって綾子を女として見れねぇし。
でも前は…俺とこいつ、女の好みが被ってたんだよな。だから二人して必死になって瑠華を堕とそうとしてたわけだけど。
エレベーターが八階に到着して、扉が開く間際……さっきも同じように会長室がある最上階から降りてきたことを思い出し―――軽く既視感を覚える。
あのとき考えていたのは―――
「なぁお前、秘書課の瑞野さんと喋ったことある?」
「ミズノ…?誰、それ??」
裕二はきょとんと目をまばたいた。
知らない……か。まぁ知ってたらこいつのことだ。恋愛感情じゃなくてもあれこれ噂してそうだが。
それすらもしないってことは本当に知らないってことだろう。
まぁシステムの連中が直接秘書課と関係することは殆どないから、裕二が知らないのも頷ける。
「知らないんならいい」
そっけなく言って俺はエレベーターを降りた。
「ミズノって誰だ?男?女??美人なのか!」
もう女って決め付けてるし。
まぁ俺の口から出る名前ってのは大概女絡みだが。
それでも裕二はしつこく付きまとってきたが、コピー機の前でコピーを取っていた瑠華を見ると、慌てて俺のブースに引っ込んだ。
よっぽど今は瑠華のことが怖いらしい。
哀れ、裕二。だけどいい気味だ。
そう言えば……こんな光景以前にもあった。デジャヴュ。
あれは確か―――そう、あの陰険村木の野郎のときだ。
瑠華と派手に言い合いをして、やり込められたときの……
もう半年以上経ってるが…懐かしいぜ。