Fahrenheit -華氏- Ⅱ
裕二は俺のパソコンに向って作業を開始させている。
「おかりなさい」とデスクには佐々木が相変わらず真面目な表情で仕事に向っていた。
佐々木の顔を見ると、何故か安心する俺。
こいつは何も知らないし、それこそ俺に無害だ。
細かいことに口煩いがそれに目を瞑るとして、本当にイイヤツ。
だから余計にさっき瑞野さんにこいつの話題を出したことを申し訳なく思う。
佐々木も哀れだな……瑞野さんに失恋決定だ。
「佐々木、コーヒー淹れてやろうか?」
にこにこ顔で覗き込むと、佐々木はあからさまに表情を歪めた。
「どうしたんですか!?停電で、頭おかしくなっちゃったんですか?元々おかしいところはあったけど」
おい!元々おかしいはないだろが!
それでも俺は笑顔を引きつらせたまま、佐々木の使用しているマグカップをぶんどってやった。
やることないし、暇だったのもある。
瑠華ちゃんはコピー終わったかなぁ??♪
途中、二部署が共有するコピー機を覗いた。
印刷した書類が重かったら俺が手伝ってあげるよ~なんて思うが、瑠華は何気に力持ち。
重いダンボールも軽々持ち上げて、『手助けは結構です』なんて言って颯爽と歩いていってしまう。
「結構です」
コピー機に向って俺に背を向けていた瑠華の声が聞こえて、俺は背筋を正した。
ま…まだ何も言ってませんが!
「えー?行こうよ~。スイーツが美味しいって評判なんだよ?女の子は甘いもの好きでしょ?」
瑠華のすぐ近くで二村の声が聞こえ、
「結構です。さっきの件は気にしてませんから」
瑠華がもう一度跳ねつけるようなことを言って、断りを入れていた。