Fahrenheit -華氏- Ⅱ
ってか二村!お前は(美人な)女と食事がしたいだけだろ!!
シロアリ緑川とマドレーヌ瑞野さんだけじゃ飽き足らず、この上瑠華までも取り入れようとしやがって!
俺が怒り顔でコピー機に向おうとしたときだった。
「二村さん、ファスナー開いてます。女性を誘うときは身だしなみにまず気を付けるべきだと私は思います」
瑠華がコピーを取りながら、さらりと一言。その横顔はいつもの無表情で、相変わらず何を考えているのか全くの謎だった。
二村は「え゛!?」と声を上げ、慌ててその姿を見下ろし、
「ぅわ。ホントだ~!」と言って恥ずかしそうにファスナーを上げる。
二村、お前もか。
意味は違うがカエサルの『※ブルータス、お前もか』と言う口調風で思って、
同時に「俺はあいつと同レベルか!」と落ち込んだ。
(※シェイクスピアのジュリアス・シーザーの有名な台詞です♪)
だけど指摘した本人は全く動じずに、ひたすらにコピー機で書類をコピーする手を止めない瑠華ちゃん。
相変わらず淡々とした口調で、ソツのない態度だった。
「それは女性社員に対してのセクシュアルルハラスメントだと思います。
セクシュアルハラスメントとは、日本語で“性的嫌がらせ”という意味です。相手に性的な行為を強要しなくても、相手の意思に反して不快や不安な状態に追いこむ行為を差します」
くどくど…
二村は瑠華の淡々とした説教(?)を聞きながら、「はぁ、それが何か…」と目を点にしてファスナーを滑らせる手を止める。
「つまり私は今、二村さんによって不快な状態に陥っているわけです」
不快な状態っ!
しかもその表情で不快なの!?
まぁそうだよな~、二村のパンツなんて見たら目が腐って悪夢見そうだ!
俺は口を押さえて笑い出しそうになるのを何とかこらえた。
「えーっと…つまり俺は柏木さんにセクハラしたと?ファスナー閉め忘れたぐらいで!」
さすがの二村も瑠華には勝てないようで、たじたじになりながら一歩後退させている。
「場合に寄っては訴えることも可能です。目撃者が居るわけですし」
なんて言って瑠華が突然振り返って俺の方を見てきた。