Fahrenheit -華氏- Ⅱ
俺は愛しい人と“資料室”という密室で二人きり。
「資料の場所はこのPCで一括登録してあるんですよね。検索したんですけど、引っかからなくて」
瑠華は資料室の奥に設置してあるデスクに向かって、キーボードを操作している。
カチカチ…と言う音を鳴らしてマウスを動かす瑠華。
俺はそんな瑠華の背後に立ち、無駄のない動きでカーソルが動くのを眺めていた……
と言いたいところだが、瑠華を見つめていた。
彼女は長い髪をゆるく後ろでまとめている。
朝はそんなことなかったのに。まとめ髪も可愛い。その後ろ姿を見下ろして、
白いうなじが眩しいぜ!このポジション最高!!
と小さくガッツポーズ。
「さっき資料を探してたときに邪魔だったので、まとめたんです」
と言って、瑠華は髪からクリップを外し、頭をわずかに振った。
ふわりと髪の束が揺れ、はらりと肩や胸の辺りで滑る。
い……
「イイ!!それっ!」
萌え~!!
「もう一回やって!」
とお願いすると、瑠華が白い目で振り返った。
「ベタですね。今度やって差し上げますのでとりあえず今は手伝ってください」と冷たい。
「今度っていつよ」
「百年後」
…………
覚えのある台詞に、俺自身、今までの女たちに言ってきた言葉を思い出す。
まさか自分の身に降りかかってくるとは、あのときは思いも寄らなかったが。