Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「いや!さっきね!!桐島と俺たち二人エレベーターが一緒だったんだ!」
慌てて言うと、瑠華は一瞬だけ訝しそうに眉をしかめたが、すぐに興味を無くしたのか前を見てモニターに向かう。
いかん、いかん…裕二をストーカーしてる女が会社まで来たって言ったら、今度こそ瑠華と裕二のマジ喧嘩に勃発する可能性がある。
早く話題を逸らさねば。
「俺は知らない。どっかに落としてきたんじゃね?」
「うーん…探したんだけど…」
と桐島が首を捻ってる最中に、
ぱたん…
またも扉が開き、
「んで、フェイスブックのコメを返さないとさ~、次長が機嫌を悪くするんだよね。
いち早くコメントを残した社員がお気に入りでさ~」
「え~、何それ。面倒くさいね」
と、今度はトラブルメーカー二村と、シロアリ緑川が。
何だよ!この資料室は!!なんでこう一気に集まってくるんだよ!
飴に群がる蟻か!?
「あれ??柏木さん~?(ついでに)部長も」
俺たちをご機嫌に見つけた二村が、にこにこ笑顔で走り寄ってくる。
お呼びじゃない。疫病神たちめ!散れっ!!
俺のとびきりスウィ~トな時間を邪魔しやがって。
しっしと(心の中で)手を振っていると、
「啓人、バックアップ先を説明したいんだが」裕二は俺の内心を無視してマイペースに話を進める。
一方で、
「啓人。俺のキー知らない?」と桐島。
「部長、資料ないのですが」と可愛い瑠華ちゃん♪
ちょっと待ってて。今探すから~
しかし
「部長もフェイスブックやってます?面白いですよ♪」と二村が言い出し、
「あたしも二村君もやってますよ。やりましょうよ~」と緑川がわざとらしく、そして気まずそうにちらりと瑠華を見て、そして慌てて俺を見上げてくる。
「部長」
「啓人」
「部長…」
「部長~」
ああ、もう!
俺は聖徳太子じゃねぇっつうの!!
いっぺんにそうたくさん話が聞けるか!!