Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「…と、まぁ私が不調なのは色々と原因がありまして。ご心配お掛けして申し訳ございません」
さっきの強気な瑠華とは一転、ふいと視線を逸らすと睫を伏せて再びシンクに目を向ける。
「言ってくれれば良かったのに」
そうすればなるべく彼女のサポートをした。
無理をさせたくなかったのだ。
「……言えませんよ」
瑠華は小さく…本当に消え入りそうな声でぽつりと漏らした。視線はシンクの辺りを彷徨ったままだ。
「どうして…」
そんなに俺頼りないかな。そりゃ瑠華に比べれば俺なんてまだまだだし。
俺は首の後ろに手を付いて、僅かに吐息を漏らした。
それでも辛いときには、辛いって言って寄りかかって欲しい。
彼女を支えたいんだ。
「言えるわけない」
瑠華はシンクの方を向いたまま今度は、はっきりと口にした。
そしてゆっくりと俺の方に顔を戻すと、
まっすぐに俺を見つめて
「だって足手まといになりたくない。あなたに迷惑を掛けたくないんです。
結果、心配を掛けているわけですけど」
ああ、だめね。私……
瑠華はそう続けて前髪をぐしゃりと掻き揚げた。
足手まとい?
迷惑……?
「そんなことない!」
俺はいつになく真剣に声を上げて、彼女を真正面から見つめ返した。