Fahrenheit -華氏- Ⅱ
俺の大きな声にびっくりしたのか、瑠華が僅かに肩を震わせた。
「…ごめん。でも、足手まといなんかじゃないし、ましてや迷惑なんかじゃないから」
俺が真剣に言うと、瑠華は小鳥のように目をまばたいた。
俺は辺りに素早くキョロキョロと視線を這わし、周りに誰も居ないことを確認すると瑠華の小さな両手をそっと握った。
「もっともっと俺を頼ってよ。佐々木に仕事を回してよ。
だって俺たち
パートナーだろ?」
瑠華の謙虚な考え方は好きだけど、俺は上司としても恋人としても、もっともっと頼って寄りかかって欲しい。
「楽しいことは二倍。辛いことは半分だ。俺に君の肩の荷を肩代わりさせてよ」
俺の言葉に瑠華は笑い出すかと思った。
だって自分で言っててかなり恥ずかしい台詞だぜ?キザもいいところだ。以前同じような台詞を吐いたが、あれは桐島での結婚式でのこと。
祝辞の言葉だったし、それほど気にならなかったが。何でもないときにさらりと言うにはあまりにも恥ずかしすぎる言葉だった。
だけど瑠華は僅かに眉を寄せて、大きな瞳の目尻に涙の雫をわずかに浮かべた。
見る見るうちに目が赤く染まっていき、僅かに白い鼻の頭も赤くなっていく。
溢れ出そうとしている涙を止める様に、瑠華は俺の手の中から手を抜こうとしたが、俺はぎゅっと握ってそれを阻んだ。
「涙が……出ちゃう…。離して下さい」
ふっと微笑んで、わずかに鼻を啜る。
俺はその両手に更に力を入れて、
「いやだ」
と頑なに離さなかった。俺の目はどこまでも真剣に彼女の姿を捉えている。
「子供みたいな駄々こねないでください……ここは会社だし……
なんか、私…みっともなくて恥ずかしい…」
口調は僅かに怒っていたものの、口元は僅かに微笑んでいた。
笑った拍子に目尻に浮かんだ涙が零れ落ち、彼女の頬をそっと伝い落ちる。