Fahrenheit -華氏- Ⅱ
俺はその目尻をそっと指で拭った。
「かっこわるくないし。てかむしろ俺の方が君の前でかっこわるいとこばっかだし」
ようやく片方俺の手から開放された瑠華の手は、目頭を押さえながら、
「まぁそうですね」とハッキリ。
グサッ!
俺の心臓にサーベルを差し込んでくれる瑠華は、まるでジャンヌ・ダルクだ。
俺の恋愛感に革命を起こしてくれた、
偉大なる女性。
「こんなところ見られたら誤解されますよ?」
「誤解?『痴話喧嘩!?あの二人ってどういう関係!?』って?………別に誤解されてもいいよ。
誤解じゃないし。まぁ喧嘩してるわけじゃないけど」
冗談ぽく笑うと、
「いいえ。『部長が柏木を苛めて泣かせてる』って」
「そっちかよ。ってか俺女性には優しいの。苛めて泣かすことなんてしません」
ふん、と口を尖らせると、
「冗談です」
瑠華は涙を浮かべたまま、淡い笑みを浮かべた。
俺の大好きな笑顔にはまだちょっと遠いけど、
でも俺はどんな状況でも瑠華には笑っていて欲しいんだ。
俺自身―――瑠華の笑顔を見ると、どんな辛いことでも吹き飛ぶ。
俺は君に革命を起こしたい。
薄暗がりに入り込もうとする君の心に光を灯したい。
俺は君が笑ってくれるのなら、どんなことでもしたいと思うし、するよ。
(別れる以外で)
「どんな薬よりも、部長がこうやってすぐ傍に居てくれるのが、
私にとって何よりの薬です」
その言葉を聞いて、その笑顔を見て―――
ねぇ
俺、少しでも君に革命を起こせれたと
自惚れてもいいかな―――?