Fahrenheit -華氏- Ⅱ
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数分後、瑠華は落ち着いたのかマグカップにコーヒーを注いでその場で口を付けた。
秘書室の…コーヒーメーカーでたてたブルマンとは違って、このフロアの社員が共有している安物のインスタントコーヒーだけど、
その香りは秘書室のブルマンより芳醇な香りがした。
ポットから注ぎいれた湯がマグカップの中で湯気を立たせていて、瑠華は両手でマグカップを包み込み、熱そうにふぅふぅ冷ましていた。
女性のそうゆう仕草好きだ。それを言ったらまた瑠華に「ベタですね」なんて言われそうだが。
ええ!ベタですよ!俺ぁ!!
「飲みます?」
そう聞かれて、
「え?」一瞬そう答えてしまった。
「物欲しそうな顔してましたよ」
「物欲しそうな顔って…あのね、俺はコーヒーが欲しかったわけじゃなく、る…柏木さんが淹れたコーヒーだから欲しいの」
瑠華の吐息入りコーヒーってなんかすっげぇうまそうじゃね?←変態ぽい
「何か変態っぽいのであげません」
瑠華がつんと顔を逸らしてコーヒーを横に持っていく。
「変態っぽいってねぇ!まぁ当たってるだけにいい訳できませんけどぉ」
それでも『変態ぽい』て言われたことに怒ったフリをしてみせた。
(実際怒ってないケド)
「無理やり飲んでやる」
そう言って瑠華の手に重ねるように包み込み、そのまま強引にカップに口を付けた。
「やめてください。部長菌が入ります」
楽しそうに言って瑠華が身をよじり、それが何だか楽しくて俺は強引に一口飲んでやった。
「本気でやめてください」と怒られるかと思ってちょっと身構えてはいたが、
「何だかほっとします」
瑠華の言葉は意外なものだった。
瑠華がされるがままの手を抜いて、俺の手の上に手を重ねてくる。
カップの中のコーヒーで温められた瑠華の手のひらはいつも以上に温かかった。
「―――え…?」