Fahrenheit -華氏- Ⅱ



「気持ちが不安定だったのもありますが、あたし―――


二村さんにしつこく誘われて、本当に嫌だった。


前だったら…二村さんの裏の事情を知らなかったら、単に懐っこいだけかと思いますが、知ってしまった以上、





あの人の卑劣とも呼べるやり方に、“女”として利用させることに―――




どうしようもなく怒りを覚えたし、どうしようもなく悲しかった。




ああ、やっぱりあたしは女なんだって。


こだわりすぎかもしれませんが、それが私にはとても辛くて悲しいんです」



瑠華は俺の手のひらにそっと手を重ねて俺を見上げてきた。


「大丈夫だよ」


俺は瑠華の手を握り返した。


この手の問題にどう答えていいのか、俺は正直分からない。


俺も男だから。



ただ、あいつのように地位や名誉、金なんかの為に利用したことはない。





「あたし―――前はお金や体だけの関係ほど明確で、割り切れるものってないと思ってたし、そうゆう関係を望んでた。


でも……す……」


瑠華が言いかけて口ごもると、僅かに顔を赤くさせて俯いた。


「す?(酢?酢?巣??なんだろ…)」


先を促すと、




「あたし、好きな人が居るから。今、目の前に好きな人がいるから、だから」




瑠華が真剣な顔で俺を見あげて、俺の手を懸命に握ってくる。


瑠華……


「だから二村さんのあの行動が嫌だったんです」


何て答えればいいのか分からなかったけれど、でも大切なことはたった一つ。



やばい……



好き過ぎる。






「俺が守るから、安心して?」





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